● 心が浄化される本
・「子供のために」
小学生のころ、宮崎さんの「風の谷のナウシカ」をテレビで見て、心に強く感じるものがありました。何かわからないけれど、大事なことを教えてくれていると思いました。アニメは当時好きでよく観ていましたが、宮崎さんの作品はいままで観た作品のどれとも質が違ったものでした。それまで環境問題などのテーマに触れると、テレビやジャーナリストは人間が悪だ、と人を裁くことを押しつけてきましたが、宮崎さんの作品はどれも、自分たちを許して改善していこうといった内容だったかなと幼いながらに感じました。大人になって、宮崎さんの人間性について知りたくなり、風の帰る場所―ナウシカから千尋までの軌跡を読んでみましたが、彼は苦しみながらも、人を愛することを選んだのだなあと感じさせる内容でした。この本もまた、日本の教育の在り方や宗教観についてふれるとともに、彼が本当に人間が好きで人間に対して希望を持っているんだということを感じさせました。その一方で、今のアニメに対してはかなり厳しいコメントを持っています。「お人形ごっこ」とか、恋愛を軽く扱っていることについても釘を刺しています。これから何か作品を作る人もより良い作品を作ってみたいという人なら、どれも共感できる内容ではないかと思います。
・「「もののけ姫」「千と千尋」まで」
まず表紙の裏から「もののけ姫」「千と千尋」「ハウル」「ポニョ」が同じボリュームで取り上げられているような印象を与えますが、前二作がメインです。「ハウル」の章はあまり作品とは関係がない対談が多く、「ポニョ」に関しては編集する対談や講演ネタを集める時間がなかったようで、軽くなっています。「もののけ姫」はテレビ時代劇で目にすることがない登場人物ばかり現れる。時代を室町に設定した現代ファンタジーかと思いきや、「士農工商」やら「百姓」の設定を誤解しているのは現代の日本人で、農民も武器を携帯していたし、水呑み百姓の範疇は広い。もっと雑多な職業、歴史の記録にかすかに現れるような人々がじつは結構いた。その人物たちが、互いが生きるための抗争をする。歴史学者の専門知識や、考古学上の推測をまじえて語られています。ストーリーは自然の凶暴さと、文明を推し進める人間の暴力が描かれる。つづく作品「千と千尋」ここでは「ここで働かせてください!」のセリフがとりあげられている。10歳の少女の自立といえばパーソナルなレベルですが、この時代に、この場所で、完全でない自分が生きるための力(知恵)を獲得していくのは、「生きる」テーマであり両作品に共通する。子供はちょっとケガをして当然だし、飛行機なんかオンボロであって上等とする考え方は、どこかヒステリックな現代に、監督の作品が受け入れられる理由のように思えます。
・「宮崎駿の知性に驚嘆。巨匠の思索を味わおう」
■宮崎駿の1997年から2008年までの談話や思索を丹念に拾い集めた本。■5百頁超のど迫力だ。どこをとても面白いが、「もののけ姫」をテーマに京都精華大学で牧野圭一氏の司会で梅原猛、網野善彦、高坂制各氏と語り合う座談会が凄い。宮崎作品が大変高い教養に裏打ちされていることが良く理解できる。しかも、作品は充分な娯楽性を持っており、収益ももたらしているのだから、ただ感嘆あるのみだ。
・「不条理な資本主義文明への憤怒、そして、子供達への限りない希望」
1997年から2008年までの文章を集めた本書出版は本意ではないと宮崎さんは仰りますが、各章間のダブリ等を差し引いても氏の思想等を深く知れる点でとても貴重な文献です。
私は本書から宮崎さんの「行き過ぎた資本主義社会への憤怒」と「子供達への限りない希望」を深く感じましたが、氏が何に影響を受けて育ったか、生きて(仕事して)きたか、またその思想等がどういったものなのか興味がある方は500ページ強の本書をぜひご一読下さい。
以下、私が印象に残った言葉
・絶望は生命の本質、残忍は生命の本性・自分の中に人間を罰したいという気持ちがある・子供の時代に得た何かには決定的な影響力があり、大人の1年間に匹敵するような5分間がある・アシタカがサンに「生きろ」と言った時に「生きよう」と心に決めたという手紙を子供達からたくさんもらいました・僕には小さい時から、生まれてきたのは間違いだったんじゃないかという疑念がありました・子供たちを取り巻く価値観はどんどん数を減らしている。文部省だけじゃなく社会全体が「損得で計算しろ」という一つの価値観に絞り込んだからです・空気まで取引するのは不遜ですよ。人間が生きて行く為の最も根本の所で「儲かる、儲からない」をやっていては未来はロクなことにならない。儲けだけではない、もっと大切な何かがあるはずです。そうでないと、アニメーションをつくる仕事などは成り立ちません・(日本人は)誇りも歴史観もない、自分がアメリカという国からどういうふうに思われているかも知らない・「魂にとって何が大切か」「魂とは何か」それが私達のいつまでも変わらない主題であり、課せられた問いだと思います・子供たちには三歳まではテレビを見せるなと周りの人に言っている。自分で考える機会を確実に奪ってしまうから・本当に異常なまでの早さで昭和の軍閥政治は、破局に向かって突き進んでいく。今も世界はそんなふうにたちまちの内に変わっていく可能性がある・アニメーションの可能性って、商売とか商品化とか、そういうこととは無関係に”志”として存在していたんです・子供が成長してどうなるかといえば、ただのつまらない大人になるだけです。だけど、子供はいつも希望です。挫折していく、希望の塊なんです
・「『崖の上のポニョ』を批判する評論家はバカである」
『崖の上のポニョ』を小賢しく(とあえて言っておこう)批判する評論家が多い。一般の方々も賛否両論だ。私は『ポニョ』は大傑作だと思う。アメリカで公開されたばかりで、かの国の好評価が入ってくると豹変する評論家が多いと指摘しておこう。かつて、『ブレードランナー』がそうだった。
解読の手がかりはこの本にあった。といっても、「ポニョ」について書かれた文章は少ししかない。しかし、『ポニョ』に関連する言葉は多い。一部を引用しよう。
・「漫画映画を子供時代に一本か二本見るだけで終われたら素晴らしいなと思っているんですよね」(p.245)。そんな五歳児のための映画だ! だいたい五歳児が声優が芸能人で困ったなんて言いますか?!
・「少しぐらいの逆境に負けない、むしろ力を発揮するようなエネルギー、本来子どもたちのものであったエネルギーを子どもたちに返してあげること」(p.311)。ポニョをわがままなキャラクターだなんて批判するバカは分かっていない。なぜポニョが品行方正じゃなきゃいけないんですか。おとぎ話のお姫様はみんなわがままですよ。
・「コンピュータを教えるより、子どもたちが自由にナイフを使えて糸を結んだりほどいたりする、石器時代に覚えたことを身に付けなきゃダメですよ」。宗介のキャラクターは現代の男の子としてはあり得ない設定です。
・「はやくしなさいの連呼とかフレンドリーにご機嫌をとる両親の下では、子供は自分の力を発揮できません。親はなくても子は育つです」(p.257)。子供を家に置き去りにするリサを批判する大人はよく映画を見ていません。ちゃんと説明されています。
・そして、『ポニョ』については、「海を背景ではなく主要な登場人物としてアニメートする」とか、「五歳はまだ神に属していてこの世の男にはなりきらない最後の年齢です」と言っています。 納得!
・「12年間に渡る作品の軌跡」
もののけ姫、千と千尋の神隠し、ハウルの動く城、崖の上のポニョまでの12年間に渡る作品作りを企画書、エッセイ、インタビュー、対談、公演などを通してその背景を見ることができます。宮崎駿監督がどういう考えの持ち主かも感じることが出来て面白かったです。ジブリの作品が好きな人で宮崎駿監督がどういう人か知りたいなら読む価値はとても高いです。
・「予言してるみたい」
消費社会の行き詰った今の状況を、まるで予言していたかのようでした。アニメの世界を含めて今の社会の、大量消費社会がもたらす弊害と、でもそれに頼らなければならない矛盾が、読んでいてすごく身に染みたし、それが作品に滲み出ているんだってことに気付かされました。漠然と見ているシーンでも、わかっている人には意味しているものがわかるっていうのも、なんだか無知なことが害にもなるような気がして、ドキッとしました…。
・「虐殺されたモーツァルト、決して癒されない傷口」
宮崎駿さんの1979〜1996年までの文章をまとめた前著「出発点」を引き継ぎ1997〜2008年までの文章、対談、詩編、企画書をまとめた500頁を越える一冊です。対談相手はロジャー・イーバート氏を始めニック・パーク氏、梅原孟氏、網野善彦氏、中村良夫氏、養老孟司氏、山折哲雄氏、筑紫哲也氏などです。
宮崎さんは、山中貞雄や内田吐夢作品がお好きのようですが映画の見方一つとっても、軍事史、兵器史を含めた歴史の教養なくしては見落とす事が多い事や消費者と観客との違いも納得できました。そしてごく近年に語られたこれらの言葉たちに、宮崎作品に心奪われた過去の思いが甦りました。
みなが前向きに生きる必要なんてない。誰もが不道徳不健康の極みで生き、死んで行く権利を持ってるはずだ。
特定の教義や教祖を一切信奉せず、しかし日本人として原初から続く宗教心は激しく持っている。
コンテンツ産業や文化交流とは無縁に作る。名誉と錯覚と思い上がりで自分達の自由を失う訳にはいかない。
破れ続ける傷口を憐れむのではなく、その傷に痛みを感じなくなる事への眼差し。虐殺されたモーツァルトはいずれ場末の腐った音楽を愛するようになるとサン・テグジュペリは書いた。自分がすでに穴の空いたそれではないかという懸念は益々強くなるばかりだ。白蟻の一匹である自分は、虐殺された何者かを抱えまたモーツァルトを虐殺し続けているに違いない。それでも白蟻は白蟻の言葉で世界の美しさを書くしか無いのだ。
人一倍凶暴で憎悪や憤怒を抱えていると吐露する宮崎さんが、不安と恐怖に満ちていたと云う幼少の頃からそれらと格闘し、他人を楽しませる事で自身の存在を許されようとした結果「健全で優しい作品を作る宮崎駿」というイメージが世間に形成されたのかも知れません。宮崎駿さん及び宮崎作品の理解を深める言葉が収録されている著書だと思います。
・「宮崎駿のアニメについて」
日本アニメ界のヒット作品をあげれば必ずこの人の作品が上がるはず。
その作品群について作者が今までに語ってきた言葉を一冊にまとめあげられたのが本書になる。
「もののけ姫」から「崖の上のポニョ」まで語りつくされている。
作品に込められた思いがとてもよく伝わってきます。
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