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▼戦争と平和〈1〉 (岩波文庫):詳細

戦争と平和〈1〉 (岩波文庫)

戦争と平和〈1〉 (岩波文庫)
トルストイ(著), 藤沼 貴(翻訳)

▼クチコミ情報

・「新訳です
現代の若者にも取っつきやすいようにと平易に、分かりにくい部分を補足するような形で訳されています。当時の時代背景などに関しても様々な角度からコラムが挿入されているので、これまで以上に理解を深めることができると思います。初心者の入門にはもってこいかと。作品に関してはもちろん世界文学中の大傑作。決してその格調は損なわれてはいないと思うので、今から読む人はこの新訳版を手にとってはどうでしょうか。

・「読み方をかえれば倍楽しめる
若いときに読んだときは、ひたすらナターシャとアンドレイの恋物語に気をとられていたが、今読み返すと、たとえばアンドレイの頑固な父や内気な妹など、脇役の書き方がくっきりとして見事。同じ一冊の本でもいろんな読み方をすると倍楽しめる。

・「原文に忠実な翻訳ということで
他の評者の方たちも指摘しているように、コラムや地図が充実していて、作品鑑賞にとても役立ちます。訳者があとがき(Q&Aというかたちです)で、この翻訳では原文に忠実にすることを一番重視したと書いています。そうした訳者の姿勢にかかわらず、2,3の方たちのおっしゃるように、原文を見なくても、明らかな誤りと思われるところが何カ所かあります。3千ページに近い作品ですから、誤訳があるのは当然でしょうが、こんな素人にも分かる誤訳があるのは、全体として明確でリズムのある翻訳であるのに残念です(付録に力が入りすぎて、本体が少しなおざりになっているような・・)。他の翻訳をすべて点検していませんが、おそらく別のものも、同様な誤訳はあることでしょう。私は、原久一郎の翻訳と照らし合わせながら、読みました。英訳もよさそうですね。

それでも、この作品を翻訳という眼鏡を通して読みながら、アンドレイ、ナターシャ、ピエールが間近の人間として感じられ、その生活の展開にはらはらする(結末は分かっていても)のは、不思議です。彼らの行動、思想、感情を通して、トルストイの人生観が垣間見えます。人生は矛盾に満ち、不合理や不正があふれ、何より、自分という人間が弱く貧しくとも、それでも生きるに値するものであることを、トルストイは情熱をこめて、訴えているようです。

この作品(私は叙事詩がふさわしい呼び名と思いますが)を読み、あらためて、自分、周囲を見つめ直すと、生活が変わってゆかざるを得ません。「戦争と平和」を読む、読まないは、読者の自由ではなく、必然性(エピローグで自由と必然性の関係が詳しく扱われています)の問題であり、手元にこの作品がありながら、読まずにいるひとは、そういう必然性があり、読む人は、やむにやまれずに読む、そうした文芸作品だと考えています。

・「コラムはいいのですが・・・。
 今回の岩波文庫の新訳は、当時の地図だけでなく、さまざまなコラムが各巻に入っているので、この小説がなぜ冒頭からフランス語で始まっているのかなど、小説を読む上で背景がよくわかります。古典文学などは特にこのようなコラムを入れてもらうと親しみが増しますので、今後、岩波書店だけではなく、各出版社ともこうした工夫を行っていただきたいと思います。 しかし、 31ページの「ほんの少し黒みがかったうぶ毛のはえている上唇」(上唇にうぶ毛は生えません)、 286ページの「そんなことは僕に向かって言えないはずですよ、おとうさん」(アンドレイ公爵が父親にけんかを売っているようです)、 495ページの「食事をして真っ赤になった二十二歳の非の打ちどころのない将軍」(ロシア帝国では22歳で将軍になれる?)、 468ページの「ラン指揮のフランス軍」(ジャン・「ランヌ」元帥です) などの疑問な箇所があり、増刷か改版するときに改めていただきたいと思います。少なくとも、新訳刊行前に旧訳や他の翻訳とのチェックは行うべきだったと思います。

・「トルストイの歴史認識
 作者自身がこの作品に対する解説を書いている(第四巻巻末に訳出)。トルストイは「これは小説ではない」とはっきり言っている。もちろん、ここで作者が小説ではないという意味は、この作品に限らずロシア文学の名作といえるものはすべて小説という狭い枠内に収まるものではない、という意味なのであるが、その意味を超えて、この作品はナポレオンのロシア戦役の歴史的叙述と、その中で生きる各登場人物の描写、という、歴史書と文学書の二面性を持つ作品を仕上げようとした、ということができる。なので、エピローグ第一篇の登場人物に関する結末はやや尻切れとんぼに見えるが、これは承知の上での処置なのだろう。むしろ作者の意図はエピローグ第二編の歴史哲学にあると思われる。 ここで作者の語る歴史哲学はE.H.カーをはじめさまざまな歴史学者が繰り返し問い続けてきたものと言えるが、作者のこの総括は全作品の要であると思われる。個人的には、作者のこの意図を最も作品中で体現する人物は、ピエールでもアンドレイでもナポレオンでもなく、クトゥーゾフであると思われる。史家には評判のわるいこの将軍に対するトルストイの肯定的評価が端的に作者の歴史観を表しているようにわたくしには感じられた。 なお、オリジナルの翻訳は戦前のものであり、訳者のご子息によって若干の改訂がなされている。香気漂う名翻訳であると考える。

・「作者の戦争体験が活かされている
 言わずと知れた、世界的名作である。誰もが読むべき作品であることは、疑いないだろう。もっとも、第一巻は導入部分で本格的には始まっていないので、私には少々退屈な部分もあった。面白くなったのは、第二巻の途中からである。 しかしこの巻にも、後年の作品に見られるような「トルストイらしさ」がしばしば感じられる。たとえば、ピエールとアンドレイが冒頭の会話で女について語っている。

アンドレイ「……全体に女がいったいどんなものか、君がせめて知ることができたらね!僕の親父の言うとおりだ。エゴイズム、虚栄、頭の悪さ、万事につけてくだらないこと、ありのままに正体を見せれば、これが女さ。……君、結婚なんかするな」

ピエール「どうにも仕方がないんですよ、あなた。女ですよ、あなた、女ですよ!」(アンドレイに女遊びをやめろと言われて)

 このあたりの描写は、『クロイツェル・ソナタ』などと比べてみると面白い。戦場の場面をかなり長く書いているのも、クリミア戦争に従軍したトルストイならではである。

・「翻訳に幾分問題が
「戦争と平和」は文句なく、トルストイの最高傑作で文学の最高峰だと思う。若い読者にもぜひ読んでもらいたい。この岩波版は、詠みやすくするために、当時の歴史背景のコラムを入れるなどの努力をしている。ただし、肝心の翻訳に問題がある。たとえば365頁「ネスヴィツキーはふり返った。そして、動いて行く歩兵隊の生きた塊をへだてて十五、六歩離れたところに、赤くて、黒くて、髪がもつれて、帽子を後ろにずらして、上着を小粋に片方の肩にひっかけたデニーソフを見つけた」これで、読者の方は意味がわかりますか?コラムや歴史背景の説明に力を注ぐのなら、なぜそれと同等の力を翻訳の文章をブラッシュアップすることに力を注がないのか。幸い、「戦争と平和」は他の複数の出版社から翻訳が出ている。これから「戦争と平和」を読もうとする方は、他社の翻訳と比較して、自分にとっていちばん読みやすく面白く訳していると思える翻訳書を選んで欲しい。そしてこの文学の圧倒的な感動を味わって、人生の糧にしていただきたい。

・「なぜいま?
世界の文豪の大著を手にした。歴史の中の個人の運命に思わずうなってしまった。一方で私は一つの疑問を抱いた。なぜいま岩波書店は『戦争と平和』を刊行することにしたのであろうか。岩波は活字を大きくしかつコラムを設けて当時の社会状況の説明を載せてまでいる。これは「アジア・太平洋戦争」から60年経ち、我々日本人がこの戦(いくさ)の歴史化を試みることを促しているからではなかろうか。動的な社会における従軍した人の歴史、銃後の歴史。動乱の中の人間を考察する機会を岩波は我々に与えたのだ思う。

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