・「「お! これは、読ませるじゃないか」と、いつしか夢中で読みふけっていた」
江戸の神田三島町の一角に店を構える袋物屋の三島屋。訳あって、その店の主人である叔父夫婦のもとに預けられ、働くことになった十七歳のちかが、店の「黒白の間」で、そこを訪れる人たちの不思議で怪しい話を聞いてゆく。不思議で怪しい、切なさと怖さ、恨みと憎しみ、割り切れぬ思いなどが絡まり合ってゆく。曰く、変調百物語。その聞き手となった主人公のちかが、語り手となる人たちから百物語の話を聞いていくことで、語り手とそこに関わる人たちの呪いを浄化し、それとともに、自らが負った災厄の根っこを見つめ、逃げずに相対してゆくようになるのですね。
著者の『あかんべえ』と好一対の、健気な少女と幽霊あるいは幽鬼たちが心を触れ合わせ、それぞれに浄化、変容、再生していく物語。第一話「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」の話から、「お! これは、読ませるじゃないか」と、話の中に引っ張り込まれ、「凶宅」「邪恋」「魔鏡」と読み進めていくうちに、いつしか夢中で読みふけっていました。とりわけ、「魔鏡」「家鳴り(いえなり)」と続く終盤、物語の第四コーナーの一瀉千里、怒涛の勢いは圧巻。「魔鏡」に出てくる美しい登場人物は、殊に印象強烈。怖かったなあ。上村松園の『焔(ほのお)』という絵に描かれた女性がゆくりなくも思い出されまして、ぞおっとしました。
愛する心と憎む心、気遣う心と悪意の心、そうした人の思いというのは表裏一体、紙一重のところにあるのだなあと、本書をひもといていくうちに、しみじみ感じ入ってしまいましたねぇ。登場人物の伊兵衛の言う、<何が白で何が黒かということは、実はとても曖昧なのだよ>との言葉が、ことのほか印象深く、忘れられません。 蛇足ながら、「最終話 家鳴り」の中、ある人物が言う「姉さんが来た、姉さんが来た」という台詞のことで。ここはおそらく、著者の敬愛する岡本綺堂『半七捕物帳』の記念すべき第一話「お文(ふみ)の魂」を念頭に置いています。本書をはじめ、宮部さんの江戸時代ものの小説の雰囲気、なかでも怪しの雰囲気には、岡本綺堂の『半七捕物帳』『三浦老人昔話』『青蛙堂鬼談(せいあどうきだん)』などの作品に非常に通じるものがあります。未読の方は、そちらもぜひ、お読みになることをおすすめいたします。
・「ちょっとがっかり」
もっとしみじみとした小説だと思って読んだが、そうではなかった。「霊験お初」や「あかんべえ」のように最後に魔物と対決するという小説だった。ほかの人に指摘されているように最終話は強引さを感じるし、子供だましとも言える。読んでいるときはそれなりにおもしろかったが、宮部みゆきの小説としてはあまり良いできではない。人に推薦はできないなあ。
・「宮部みゆきの効能と弊害」
著者、待望の新刊です。宮部みゆきさんの作品は全部好きですが、やはり(『火車』を別格として)江戸のお店モノが一番好き。メインの物語のつなぎに紹介される、商売のあれこれが好き。「切り回す」とか、「こまこまと」とか、「きりきりと」とか、ああ自分も明日頑張って仕事しようとか思えますよね。
不幸な事件に巻き込まれて心を閉ざしてしまった主人公が、自身の心の傷故に、同じような痛みを抱えた人を引き寄せ、打ち明け話を聴くうちに、語る者の心も聴く者の心も、とらわれていた想いから解き放たれていきます。そんな「変調百物語」。
実際の生活に囚われている私たちは、実際のところは、稀な例外を除き、解き放たれることはなかろうと思うのですね。自分に迷惑をかけずに死んでくれと世話になった人を憎む心も、許されぬ恋であるとわかっていても惹きつけられてしまう心も、そして、自分が気に病んでいることさえ丸く収まれば、それで大団円なのであって、付随して自分が苦しめている人や忘れている人がいることは、きれいさっぱりなかったことになってしまう心も、リアルに私たちの日常にあるものだし、そして現実の日常では、そうした心は解き放たれることはない。でも、いっとき、宮部みゆきの小説を読んでいる時だけでも、小説の登場人物の心が解れることに随伴して、私たちの現実の心も解れることがあるのかも、と思うことができます(甘いんだけど)。そう思うだけで、実際は解れないんだけれど(私の心に巣食う憎しみも決して減らないのよ〜♪)、でも、そう思えるだけで、少なくとも明日もまた朝起きようと思えます。本当にありがたい、これは宮部みゆきの大効用。
でも、宮部みゆきの小説を読んでからしばらくは、きっとみんな言葉にも行動にも表さない、それぞれのいろんな心を抱えているのだなあ、とか思っちゃって、同僚氏のあれこれや、お隣のデスクのお嬢さんや、上司のなんだかんだに、いつものように普通に対応できなくて、なにかと固まってしまい、業務の進捗に被害甚大。たいへんに困ったことで、日常生活を円滑に送るためには、「偏見」という認知の節約が有効なことと同様に、あんまり「きっとみなさん、いろいろな想いを抱えて、それでも会社に来てらっしゃる」みたいなことはあんまり考えないのが吉かと。これが宮部みゆきの弊害。
ほんまに、いいものを読ませてもらいました。
・「怪談としてはなかなか。しかし……?」
1話が一番完成度が高いように感じました。2話もなかなかの怖さでしたが最終話に繋がっていくと思うとちょっと……。そして主人公自身の話である3話が挟まり、4話は(話の内容自体は怖いですが)主人公の心を癒すためのお話。最終話は……展開がかなり強引なものに感じました。
・「設定の妙味」
縁談の際に起こった悲劇によって、心に大きな傷を負ってしまったちかが主人公です。
物語は、彼女を預かった叔父の三島屋の主人の計らいで、心の傷の回復のために企画された「変調百物語」を中心に展開します。 この「変調百物語」の聴き手をあずかるちかは、その中で徐々に逞しく成長して行きます。 それは、ものの見方の勉強と言うことだったのかも知れません。
不幸な事件にあたって、彼女の考え方は一方的に固定されがちです。そんな時、他の事件の話を聴くことによって、別の角度からの考え方を知ることが出来るからです。それは、「広い世間には、さまざまな不幸がある。とりどりの罪と罰がある。それぞれの償いようがある。」ということなのでしょう。 「黒白の間」と名付けられた座敷で子の催しがなされるのも、「黒」「白」はそれほどはっきりとはしていないということの象徴でしょう。
舞台を江戸にとり、「百物語」を中心に一人の女性の心の問題を扱うと言うこの設定は非常に面白く、楽しく読むことが出来ました。 終わり方を見ると、何となく続編が書かれそうなので、それも又楽しみにしています。
・「期待しすぎなのだろうか…」
面白くないわけではない。宮部さん独特の「ずっと登場人物たちの生活を見続けたくなる」ような書きっぷりも健在だと思う。でも、「ぼんくら」、「日暮らし」、「あかんべえ」、「孤宿の人」など最近の江戸もの長編の珠玉の出来に比べるとどうしても劣る。かなり劣る。他の作家が書いたのなら星4つかもしれない。期待していた分、そして前半からのめりこんで読んで、これをどう収めるのだろうとわくわくして読んだ分、後半の子供だましのような展開と結末にがっかりしてしまった。
・「本当にがっかり」
宮部みゆきさん、大好きだったんですけど最近のものはあまりおもしろく感じられなくて、離れていました。機会があって久しぶりに手にとってみて「やっぱり・・・」と再びがっかり。
話運びは相変わらずお上手で、ぐいぐい読ませるのですが、ところどころで「え?この人がこんなこと言う?」とか、「その展開には必然性が感じられません!」という気持ちが湧いてきて話に没頭できなくなり、最後のオールスターで「ありえないだろ〜〜〜!」と机をひっくりかえしたくなりました。
・登場人物の像が完成されていない・話が単調(特に殺し方の類似)・無理やり作者の望む方向に話を持っていき強引に終わらせている
無理にまとめたり解決したりしなくてもいい問題を、解決しようとして間違った答えを出した感が強いです。
杉浦日名子さんの百物語を例にあげてる方がいらっしゃいましたが、同感です。全て説明がつく物事ばかりでこの世が構成されているわけではありません。うらみつらみと関係なく不思議が存在し、理解できないしする必要も無いそれらを蛍光灯でてらして解剖してみたところで無粋なだけです。
宮部さんは昔、本作品では脇役におかれたお吉さん、宗介さんのような人を主役にして珠玉の小品を書かれていたんですけどね・・・救われがたい運命に落ち込んだ市井の人々。改めてかえりみられることのなく、自ら声をあげることもなく静かに世を去っていく人々を。
多分続編ではおちかと清太郎がいい仲になるんでしょうね〜〜〜全然読みたいとは思いませんが。
・「非常にひきつけられるお話でしたが・・・」
途中までは非常に引きつけられるお話でした。良くできていて、読んでいる時間が楽しく幸せでした。しかし最後の展開にはがっかりしました。いきなり子供の冒険小説・・・。前半と後半の完成度の違いに愕然とします。残念です。でもまあ・・前半だけでも楽しい時間を過ごせたので、それで十分かも・・・といった気持ちです。
・「一つ一つの物語の高い完成度にくらべ人の思いが伝わらない」
宮部みゆき独特のファンタジーと奇怪さが物語を高揚させる時代小説です。
こころに傷を負ったおちかと同じような苦しみを持っているひととの対話という形で、一話ごとにすすめられていく構成は読みやすく、また、季節を感じさせる植物や、また、舞台となるお屋敷や部屋の中の空気感と様子の描写は相変わらず細微であり美しい事に感銘します。
しかし、最後には、一話一話に登場した死霊や生霊を含んだ様々な登場人物が同じ舞台に登場し、彼女を支えんと、のろわえ、意思を持った”お屋敷”という大敵に対峙するのですが、なぜ彼らをしてそこまで彼女の為にするのかというところの説得力に欠けていたり、一体その怨念の正体がなんであったのか、というところがよくわからないままに終焉を迎えるのでなんだか納得のいかないままだったという感が否めません。
また、今回も、一筋縄ではいかない人の気持ちの交錯を緻密に描写していいます。泣かせる境遇にある人物も、生き方に筋の通った好感の持てる人々が出てくるのですが、きっとあまりに登場人物が多いせいか、一人一人の思いやそれを映した行動が、いつもの宮部作品のように、読み手の心の芯まで届いてくるまえで描写が終わっている感が拭えません。
それでも、一つ一つの物語は、映写をみているようにおもしろいことにはかわりませんので、人情ものというよりは、百物語集の一部として読むと十分以上に楽しめると思いますし、宮部作品の別格の秀悦性に変わりはありません。
・「がっかり・・・。」
宮部みゆきの作品は、出版されたら読むカンジです。現代版もおもしろいのですが、時代物が好きでした。でも、最近のものはなんだか・・・?ですね。テンポ良くキレイにまとまっているのですが、話が強引です。それと、巧みな表現はあいかわらずなのですが、「林立」というの表現が何度か使われていて、宮部みゆきらしくないというか・・・なんというか・・・腑に落ちないかんじです。欲求不満が残る作品です。なんだか、この後も続編が出るような雰囲気でしたが、苦しいですね。一応、出たら読みますけど。
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