・「ミステリアスな疑問符のプールの中に取り残される読者」
本作が発売されて2週間近くになり、多くの方の書評やレビューを拝読させていただきましたが、私が、本作を最も的確に批評していると思った書評に次のようなものがあります。
・「読み手が作る小説」
今作は、小説とは何か?という問い自体を含んだ作品で、つまりはメタ小説としての色合いがとても強い作品でした。そうしたところはやはりちょっと抜きん出ています。多くの翻訳を通して、繰り返し読みかえされる美的リズムやテンポを持った文体を多く学んだ、と筆者はどこかで述べていましたが、特に前半のハードボイルドタッチの描写に良く現れています。一方後半は心地よい耳障りをあえて抑え、しつこいぐらいの攻めの文体となります。大きなテーマは、世界と個人、システムと卵の殻、個と個の触れ合いによるぬくもりのある交流、善悪を越えた物語の力。モチーフは、宗教、性、初恋、親子、友情。ストーリーは礼儀として省略。モチーフやストーリーにしか関心を示さない読者には、ちょっとわかりにくい小説かもしれませんが、ちゃんとエンターテイメントにもなっています。それでも、私には最近の村上春樹氏は文中で少々言いたいことを言ってしまい過ぎなきらいがある様に思えるのですが、それを差し引いても、小説でしか味わえない何ともいえない感覚の世界に読者を引き込みます。ハッピーエンドとか勧善懲悪とかいうタイプの物語ではないので、読了後、納得するとかしないとかではないです。私は先ほど読了しましたが、心地良い余韻に浸っています。イメージの連鎖、受け取る側が作る小説です。
・「進歩なし」
結論を先に言うと、
以前から村上春樹の作品が好きなファンにとっては、非常に満足できる意欲作かもしれないが、以前から村上春樹を評価していない人、見切りをつけている人は、新たに読む必要はないかもしれない。
作風やテーマは変化しても、その根底にある著者の思想というか価値観は変わっていない。根底が変わっていないため、前編は、新しい芽のような変化が見られて面白かったのだが、後編は、ストーリー展開が結局いつもと同じパターンになってしまっている。いつもと同じパターンとは、
1)主人公の男性が、才能はあるがそれを形にすることができない少女の登場をきっかけに、現実とは異なる世界に巻き込まれていく。
2)主人公の女性も登場する。この二人の物語が同時進行して交差する。現実の世界と、そうではない世界の境界をさまよい、時間と空間を超えて邂逅する主人公の男女。純粋な恋愛。ここに魅かれる読者は多いだろう。
3)周囲の登場人物たちが姿を消し、「失われ」ていく。主人公の女性も、自己犠牲によって、周辺的な、「失われ」ていく立場に移行する。しかし、主人公の男性は、ちゃっかり安全なポジションにいて、物語の軸となっていく。
村上春樹は文章が上手く、作家として読ませる力があるので、つい作品を読み進んでしまうのだが、そこに表出する思想や価値観が、保守的で古臭いので、読了後、空しくなることが多い。もう当分読むつもりはないが、次の作品に期待したい。
・「それは嘘だ。」
「たとえ何が待ち受けていようと、彼はこの月の二つある世界を生き延び、歩むべき道を見いだしていくだろう。この温もりさえ忘れさえしなければ、この心を失いさえしなければ」
この文章で終わるBOOK2の終盤に書かれている一文を読んで、この小説を買って良かったと思えた。僕にとって、村上春樹の作品で一番好きなのは『風の歌を聴け』だ。いまとなってはもう読むことのできない作風のデビュー作こそが、僕にとっての村上春樹のベストだ。だから『1Q84』という作品はナンバーワンではないし、『風の歌を聴け』のような作品が今後発表されるとは思えないから、この先、村上春樹が書く作品がデビュー作以上に好きになることはないと思う。けれど、それでもこの作品は好きだ。
月が二つあるような世界が現実にだってある、と僕は思っている。どうしてこんな目にはあわなくてならないのか、どうやったらこの現実を切り拓けるんだ。そんな風に悶え苦しむ瞬間が、僕には月がふたつあるような信じられない、逃げ出したくなる世界に思えてしまう。でも自分の生きている世界からは決して逃れられない。だったら、この世界で生きていく。自分が大切にするものが何か、それさえ見失わなければ生きていける。僕は冒頭に取り上げた文章を読んでそう思えたし、『1Q84』を読めてこの世界で生きる覚悟がもらえて幸せだった。
村上春樹の作品を嫌いな人は多いと思う。事実、僕のまわりにもいる。何を言っているのかわからない。中途半端に物語が完結する。そんな感想をよく聞く。でも自分にはその批判される特徴が魅力なわけである。何を言っているのかわからない、中途半端に物語が完結するところがすごく好きなのだ。僕はあいまいなものほど、魅力を感じてしまう。あいまいだからこそ、いろんな世界に見える。あいまいだからこそ、自分の一番美しい世界に捉えられる。村上春樹の作品にはそんな自由がある。
大切なのは村上春樹が何を言おうとしているのかを読み取ることではなく、村上春樹の書いた文章を自分がどう捉えるのか。そんなふうに読めば村上春樹の作品は楽しい。『1Q84』にはそんな文章がところどころに散らばっていて、非常に楽しい。
僕は夏目漱石と芥川龍之介が好きだ。漱石の人間の心をこれでもかと深く描写する力は天才だと思えるし、芥川の美しい文章は物語がつまらなくてもその美しい文章を読んでいるだけですごく楽しい。村上春樹には漱石ほどの深い心理描写があるわけではないし、芥川ほどの文章の魅力を感じるわけではない(ただし『風の歌を聴け』は別。あの文章は美しい。特に第一章)。けれど彼らの作品を愛する僕でも、村上春樹は次の作品が気になる数少ない小説家だ。
「言わなくてもわかる」
こんな発言をこれまで何度か聞いてきた。相手が何を考えているのか言わなくてもわかる。そんな意味として。でも僕はそれは嘘だと思っている。その人が、心の底で何を考えているのかなんてその人以外にはわかるわけがない。だから登場人物の心理が深く描写されてない小説があっても良い。
「わからないからこそ楽しいんだ。答えのないものほど、面白いことはない」
・「尻切れトンボ」
1は少し期待して読み進めるも、2でぐだぐだに。
吐き気をもよおす性癖と女性観が展開される。登場人物がみんな肉体的にストイックなのも気持ち悪い。作者はきっとデブをにくんでいるのだろう。
なぜ全国民が「ああ、あの人」と思い描くカルト集団の教祖を美化して描いたのか、その理由も分からないまま。何もかも風呂敷を広げたままで、よく分からない。
村上春樹のファンは、それまでの積み重ねがあるから、愛を持って読めるだろうが、はやりに乗じて「ブンガクを読んでみよっかな」という人にはお勧めできない。
・「読後の虚無感」
村上春樹さんの本は「ノルウェイの森」しか読んでませんが、世界で活躍されてる作家さんなので読んでみました。
1は様々な謎が出てきて、2でどう解き明かされるのが楽しみでした。文章も引き込まれました。車の名前など知らない言葉ばかり出てきすぎな気もしましたが。
残念なのは、ほとんどの謎が投げっぱなしで、読者に解釈を任せすぎな気が。それから、人物描写で何度も同じ文が出てきて「もうわかったから」とうんざりしてくる。性的描写も口説い
面白く読んだけど、最後に来てがっかりさせられる本だった。
・「よくわかりません」
村上春樹さんの作品は数冊読んだことがありましたが、話題性に惹かれて購入してしまいました。一冊読めばやはり続きが気になります。もちろんBOOK1・2共に購入です。宗教をテーマにしたということで、作者なりに何かメッセージがあるのだろうと思っていますが、いまいちピンときませんでした。性描写が無駄に多いのが好きではありません。特に作者のファンではなく、彼の小説の伝え方などよく知らないので、村上さんがこの小説で何を伝えたいのかがよくわかりません。読み終えて、特に得るものもありませんでした。でも、また新作が出版されたら怖いもの見たさで読んでしまいそうです。
・「いまいち腑に落ちない作品」
日本を代表するベテラン作家の新作だけあって、なお且つ何冊か読んでいるので、(海辺のカフカなど)期待して、上下巻計二冊、発売日に購入して 一週間かけてじっくり、堪能して読みましたが、最初のBOOK1の方は、普通に楽しめましたし、展開も徐々に変わっていって楽しめましたが、BOOK2ははっきりって、退屈でした。展開は、鈍いし、ある人物の説明もなければ、主人公のことばかりで、うまく文章で、ごまかしているのに非常に退屈さを感じました。だいたい、あらすじを何回も解説してどうするの?まったく腑に落ちない部分がやや目立った形の作品になったと思います。もう少し概念的に人間模様を描いてもらいたかった。主人公だけではなく後半の最後の200ページは、本当に読むのが、かったるかった
・「村上春樹に触れる時」
村上春樹の新刊に何年かに一度触れる事になるが、その“何年”の間に様々な文学の新しい視点や珍しい文体に出会う事もある。その中で“いつまでも変わらない村上春樹”が、時に非常に古臭く。その“変わらなさ”が、一進一退をしつつ確実に膨らんでいるような文学の領域の中で、いつまでも成長を拒んでいる思春期の子どものようであるような印象を、私は抱いてしまいます。
そしてその“変わらなさ”にやや辟易してもいる私は、それを“敢えて分かり易く示している”かのような。長編の枠では前作と言える『海辺のカフカ』の2者の物語の交互の配置、とそれらが混じり合って行く事。おいでなすったジョニーウォーカーよろしくな、ナカタさんよろしくな、カフカ君よろしくな人物と“人間の預かり知らない力”の登場に「またかよ」と、、、。
あらゆる事物が、メタファーにメタファーを上塗りし、複雑で収集の困難になったような歪んだ寓話性は、更に進行したように思えます。それが良いことか悪いことかは別として。
・「ちょっと疑問を感じて興ざめした」
村上春樹さんの大ファンですが、この1Q84はどうしても解せないものがあります。それは、小説内の教団の指導者が実在のオウム真理教の旧指導者とダブって見えてしまうのは避けられず、それであるのに美化しているように思うからです。アンダーグランドという傑作まで書き上げた作家が、いくら小説のこととはいえ、これは看過できることではないと思います。どうしても実際の事件と重なるがゆえに、ただのインチキ人間がさもかし人間を超えた存在であるかのように描かれるのは怖いです。そのインチキは笑って済ませれるようなものではない、その人間によってどれだけ苦しめられた人がいることか・・・。話もBOOK1ではとてもスリリングで盛りだくさんの仕掛けで楽しませてくれたものが、BOOK2では、段々と興ざめしていって、世界もものすごく矮小な世界になってしまって、小説としても結果的に失敗だと思います。続きがあるならば期待しますが・・・。
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