・「主人公1流、著者1.5流といったところでしょうか。」
主人公の農家・木村秋則さんの生き方には、心打たれるものがありました。信念・目標・夢と、世の中一般ではそれを持ちなさいと軽く言われることを、本当に貫き通すことがどれだけ孤独で困難なことかを心から考えさせられました。ただ、本の後半、特に一時は周囲から完全に孤立した木村さんが認められていく過程の描写は、著者の力不足が感じられます。なんと言いますか、読者に『感動しろ、感動しろ』と迫るような気持ちが前に出すぎていて、読んでいて少し気恥ずかしさを感じる表現が散見し、少し興ざめしました。それほど著者も木村さんの生き方に感銘を受けていて、客観性を失ったがゆえにかえって浅い表現にならざるを得なかったのかなと思えば許せる程度ではありますが。
・「二番煎じ」
木村さんの笑顔はチャーミングで素敵だ。とても偉業を達成した人には見えない。本を読み進めながらも何度も表紙の笑顔を見てしまう。そして、こんな素敵な笑い顔をする人だからこそ偉業を達成できたのかもしれないと妙に納得もする。
彼の無農薬、無肥料農業は知恵と工夫の賜物なのだが、その努力を読むにつれ、人間は農薬を使うことで思考を停止してしまったのではないかと思ってしまう。また、彼の農業は自然への愛情が源泉にあるのだが、彼の自然との付き合い方を読むにつれ、スローライフと呼ばれている世の中の大凡のものはファッションに過ぎないとも思ってしまう。
しかしながら、『私、バカだから』という木村さんの言葉は重い。家族に貧困を強い、人間関係を悪化させ、自身を見失い、死をも覚悟して初めて既成概念を振り払ってバカになれたのである。
一方で、この本を読み進めると非常に多くの疑問が沸いてくる。例えば、『農薬や肥料を与えなくても1個や2個の実はなるだろうから「奇跡」ってのは言いすぎじゃないか?』にはじまって、『無農薬では実らないとされるリンゴを無農薬で実らせようとするのは、農薬を使うのと同じ位、人為的なのではないか?』『自然態系が答えなら長い歴史の中で1回位偶然に無農薬リンゴが育ったりするんじゃないか?』『800本ものリンゴの木を集中的に植えること自体が自然の理にかなってないのじゃないか?』等々。稚拙な疑問かもしれない。しかしながら、本書には絶妙なタイミングで答えが用意されている。
---というレビューを書いてから、木村さん本人が書いた『自然栽培ひとすじに』読んだが、『奇跡のリンゴ』のオリジナリティのなさに驚いた。木村さんの自然栽培をPRしたNHKは評価されるべきだが、ノンフィクションとしてはオリジナリティがないことは致命的ではないだろうか?同じ題材を採り上げていけないとまでは思わないが、書くなら新たな発見や新たな視点を加えなければ付加価値がない。
・「名産品紹介・・・・じゃないよ。」
番組がワザワザ木村氏だけを本にした理由はなんだろうか? 同番組は、100回以上も放送済みであり、前番組の『プロジェクトX』のように何回か放送分をまとめて本にしてもいいはずだし、木村氏以外は本にするほどでもないのなら、放送内容の質を疑われるだろう。 断定はしないが、幻冬舎が、木村氏の苦労の物語のみに灯を当て、感動もので売れる、との読みで、本書の刊行に至ったのならば、興醒めである。
「感動した」とのレビューも多いが、内容については、執筆者の筆力もあり、安っぽい感動物にしか仕上がっておらず、木村氏の自然に逆らわない無農薬農法の主体を置いた『自然栽培ひとすじに』が、本書より1年半以上も前に刊行されながら、レビュー・評価数ともに本書より圧倒的に少ないことから、前述の出版社の意図に乗せられている読者の姿も窺え、再度興醒め。
私は、りんご農家ではないので、本書がそのまま使えるわけではないが、近い趣旨の耕作を共同で行っており、米作りの際、土の塊が残るぐらい荒く耕し、代掻きも適当に2,3回かき混ぜただけの方が、根の張りが良いとか、田植え1週間後から1週間おきに3,4回、苗の間にタイヤチェーンを引きずって歩くと、雑草が殆ど生えなくなった、との箇所は、大変参考になり、来年は是非試してみたいと思わせた。 また、実る地上部より、根を張る土地の大事さにも、既に理解していたがうなづいた。
多分、木村氏の口調や暖かさが直接会えば、本書の何倍にも魅力溢れるものだと実感できるのだろうが、本書ではその表現を仕切れておらず、読者の興味を農よりも、新しい旨いりんごという商品へ向かわせてしまっているのが残念だ。
ところで、隣のりんご農家などで、木村式に追随する所は出てきたのだろうか? それが広まることこそが重要で、木村氏もあえて自慢のりんごを高価格で売らぬまでして望んでいる事なのだが、木村式が汎用されぬなら、氏の苦労はなんだったのかともなりかねない。
・「何なの?」
著書の苦労はわかりますガ、感動はしませんでした。先が読める展開、くどい説明、アホくさくなるくらい、当たり前の内容でした。もっと苦労してる人はたくさんいます。むしろそういう人達は本書く暇などないはず。まあ、せいぜい感動したければ、勝手にどうぞ。ってな感じです。
・「ふざけるな、と言いたい」
日本は古来より土作りを基本とした農業を営んできた、それは既成概念ではなく、知恵である。無肥料、それは自然からの一方的な搾取で、やがては枯れる。今は流行りのオーガニック、搾取である。商業的な搾取は、枯渇を招く。
農薬の使用は本当に思考停止か、農薬は悪か?自然農法を気取って病害虫の発生源となり、自分の家庭ばかりか、周囲一帯の農家をも巻き込んで産地全体のダメージとなった場合、その責任は取れるのだろうか。うかつな事はするものではない。
エコだとかロハスだとか、きれいに着飾った言葉でだまされている人が多く感じられる。
・「奇跡がいつか普通になれば」
木村さんが成しえたことは、本当に素晴らしく、現代の自然と我々の関係について深く考えさせられました。いつか奇跡のリンゴではなく、それが普通になることを、木村さんは望んでいるはずです。
・「残念」
物語としては非常に面白く、感動もする。しかし、農業というのは、近所、集落の人達との連帯があってこそ成り立つものである。独りよがりの農法で、虫や病気の巣窟となった果樹園は、隣できちんと農薬防除している園にも当然、大きな迷惑をかけてしまう。例えば、我が家は庭園を綺麗に管理しているのに、隣の庭から毛虫や病気になった枯葉、雑草がはびこってきたら、あなたはどう思いますか?
また、農薬に対する大きな誤解を助長するものでもある。農薬が農業に果たす役割がどれだけ大きなものであるかを市民(メディア)はしっかり勉強する必要がある。情緒的に無農薬とか有機栽培とかに惑わされないこと。誰も好き好んで真夏の炎天下、マスク、手袋にカッパまで着て農薬散布をしようとは思わない。我々の食卓がさまざまの野菜で彩られているのは、農家が手間をかけ、肥料や農薬にも経費をかけて作物を商品として作ってくれているおかげ。市民(メディア)は情報をいろいろな方面から取り、正しい判断をしなければならない。
・「さあ、木村さんの船に乗ろう!」
最初にインドの詩人「タゴール」の詩がある。著者のこのセンスがいい。もうこの段階で、生涯の忘れえぬ一冊になる予感。そしてその予感が外れることなく、ただただ涙しながら読んだ。死にたくなった若者からの電話、こわもてのお兄さんたちの訪問を受けた時のこと、そんなちょっとしたエピソードまでもが心に深く残る。そして「枯れないでくれ」と声をかけて続け、見た光景は、、。
さあ、「みんなで木村さんの船に乗ろう!」
・「本当にここまでしなくてはいけないのか?」
木村さんの成し遂げたこと自体は素晴らしいと思う。奇跡だとも思う。しかし、彼を一方的に賛美するこの本の描き方はどうなのだろうか?
周囲の反対に見向きもせず、家族を破滅の瀬戸際まで追いやった頑なさは、高度成長期に家庭を省みず仕事に没頭したサラリーマン達を彷彿させる。それはある人にとってはノスタルジーを感じさせるかも知れないが、その陰で苦しんだ家族たち、奇跡を起こせないまま破綻していった人たちの存在を都合良く忘れている気がする。
確かに仕事に情熱を持つことは大切だが、物質的な豊かさを実現したこれからの時代に本当に必要なのは、これほど極端なことをしなくても、仕事と家庭のバランスを取り、幸せな暮らしを築いていく、もっと穏やかな生き方を確立していくことではないだろうか?
・「ある種、哲学的&奥が深い」
なかなかの良書であると思う。表現が難しいが、生物としての根源、自然科学の深層、ある種哲学的な境地を感じる本であった。なんというか頭が下がる想いだ。
ただ、少々残念な部分として、著者が必要以上に情緒的に、あるいは感傷的に描きすぎているのが残念な感じがする。木村さんへの愛、思い入れがそうさせたのかもしれないが、情緒的になればなるほど、それらが嘘っぽく、また本当の重さを失っていると思う。
この本に必要なのは、ひたすら木村さんの発した生(ナマ)の言葉であり、著者はそれを書き記すだけの客観性を失わないほうがより強い印象が残ったと思う。
逆に、欲しかったなぁと思うのは、客観性を伴ったデータと検証である。例えば、リンゴの無農薬は本当に難しいのか?それらの客観的に証明すること(例えば学者の言葉の引用であったり、インタビューであったり)や、何故難しいのかを学術的な観点からの説明を入れるなどである。
何が木村さんのリンゴ畑は一般と違うのか(書内ではより自然と表現しているが)それの学術的・データ的な裏づけがあれば、凄さが引き立つのになぁと思う。
そういう意味では、ちょっともったいない。
また、付き合い的な配慮なども考慮して、あえて盛り込まなかったようだが、やはり近隣の人たちへのインタビューや、リンゴ農家の意見など(礼賛ではなくて、批判的・懐疑的なものこそ多く)も盛り込んだほうが、やはりよかったと思う。
ただ、重ねて言うがそれらを差し引いても十分興味深い本である。もっと良い本にできたのではという想いから☆1つマイナス。
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