● 菱川勢一本棚
・「さわやかな苦さが残る映画」
歩いても、歩いてもは苦い映画である。しかし、その苦さは小気味よい。家督を継ぐべき息子を失った上、次男に出奔された親と、親の期待に応えられなかった子の、決して理想的とはいえない、しかしそれでいて濃密な関係が、姉一家や兄の死と関わった人間とを巻き込んで繰り広げられる。決して喜劇ではない。かといって悲劇でもない。ひとつには自分の両親と姉一家を通して、またひとつには妻と妻の連れ子を通して経験する、他人ではない家族だからこそ味わねばならない心理の機微。ユーモアとペーソス、時には残酷。この機微がもたらす主人公の心の揺れは、喜怒哀楽という感情とはまた別の次元で我々の心を揺らす。家族の中では正論というものは通用しない。あくまでも当人らの「普通」の感覚がすべてを支配してしまう家族の濃さ。自分の親が健在なら健在なりに、もし故人であれば、残された子としてさらに深い感慨を持って見ることができるだろう。そして自分なりの感慨を抱くことができることこそがどれだけ幸せなことであるかに、はたと気づく映画でもある。
・「何も起こらない事の裏側にある愛おしさと痛切さ。」
ある男の、ある夏の帰省の1日半。取り立てて、何か大きな出来事が起こる訳ではない。物語が進むにつれ、例えば、男と連れ添って帰省する母子が、彼の妻とその死別した前夫との連れ子である事、男は父親との確執がある事、実兄が若くして事故死しており、その墓参りも兼ねている事、そして何かと世話をやく口うるさい母親を疎ましく思っている事、などから帰省するのを億劫に感じているのが見えてくるが、だからといって、それらの事柄が劇的な展開を生む事はなく、淡々と“セレモニー”は過ぎていく。些細なエピソードを積み重ねながら、むしろ何も起こらない事の凄さ、その奥底にある愛おしさを感じさせる映画だ。樹木希林とYOUの、料理を支度しながらぐだぐだと続く家族の話であったり、阿部寛と夏川結衣の、帰省時の気の重さであったり、誰彼となく当り散らす原田芳雄の焦燥感であったり、とにかく、登場人物たちにより語られる会話や仕草のリアル感と辛辣さの裏側にある切なさに瞠目させられる。小津映画を意識したような茶の間の語らいシーンや、映画のリズムと一体化したゴンチチの美しく叙情的なギターの旋律が魅力的。樹木が絶妙。彼女は松岡錠司版「東京タワー」でも母親役を好演していたが、これは是枝裕和による亡き母親への思いの丈を綴った作品でもある。いつしか観る者誰もが、自らの帰省、強いては両親への想いを照らし合わせ、ある種の感傷と痛切さを共有化してしまう映画。終盤近く、石畳の階段を上がっていく原田と樹木の後ろ姿に、すっかり小さくなってしまった我が両親の姿が重なり、胸を衝かれた。秀作です。お薦め!
・「「いつもちょっとだけまにあわないんだよな・・・」忘れられない台詞です。」
この作品の素晴らしさは既に多くの方がじゅうぶんに説明しているみたいなので、いまさら私ごときが付け加えることもないのですが、ふと思ったことをひとつだけ・・・。主人公(阿部寛)の母親(樹木希林)が、とある関取の名前を思い出そうとしてなかなか思い出せないというくだりがあります。その後も何度か思い出そうとするも、結局できずじまいなのですが、物語の終盤、実家をあとにした阿部が帰り道のバスの中(?)でその名を不意に思い出します。そしてひとこと「いつも、ちょっとだけまにあわないんだよな・・・」と、しみじみ呟くのですが、実はこのひとことにこそ監督がこの作品で伝えたかった思いが凝縮されているのではないでしょうか。
その説明はまた後日追って・・・。
・「だから家族って素晴らしい。」
題名は,いしだあゆみさんが歌ったヒット曲“ブルーライトヨコハマ”の一節です。従ってご覧になる対象はこの歌を良くご存知の方たちの世代ということになるでしょう。ある夏の日,兄の15回目の命日に次男の良多(阿部寛)一家が久々に帰郷します。実家には元開業医の父,横山恭平(原田芳雄)と妻のとし子(樹木希林)がいて,そこにはすでに長女のちなみ(YOU)一家も来ていました。是枝裕和監督は,何事かが無いと集まらない実家を舞台に,家族たちが交わす言葉の端々に過去の記憶を甦らせ,今の思いを語らせていきます。ある夏の日の24時間を114分に凝縮した人間模様は,俳優たちの演技と思わせない名演によって,映画を見ている者もその場に同席しているような気分になり,自分の家族のことを考えさせられます。映画の魅力の一つである“役者を自分に置き換える”という点からいえば,あの「おくりびと」よりも本作の方が優れているのではないかと思います。お金をかけて圧倒的な迫力で見るものを押さえ込んでしまうか,映画を通じて何かを考える機会とするか,映画には様々な魅力があって,それぞれに楽しめるから良いんですね。久々に“ハートに染みる”日本映画を楽しませていただきました。感謝です。
・「夏の終わりの家族の再会、せつなく、心に沁みる、美しい日本映画」
丘から見下ろす陽の差す風光明媚な街並。電車や海のみえる光景。緑の繁る石段。坂の上のよく陽のあたる墓地から、日傘差して降りる女性の姿。ひたすら美しい日本映画の絵柄。そんな自然に囲まれた美しい情景の中、再会した家族3代の夏の終りの2日間。
夏の日に再会した家族の光景がごくごく自然に、こころにはいってくる。良多(阿部寛)は兄の命日のため、妻とその連れ子を連れ、久しぶりに帰郷。料理しながら良多たちを待つ、母(樹木希林)と、姉(YOU)の掛け合い。威厳を保ちたいのだが、いかにも老いて保ちきれない、元医師の父。丘から見降ろす街並み、青い海を背景とした、3代での墓参りシーンが、夏らしく、美しく、なんともいとおしく、心に刻み込まれる景観だ。
そしてこの映画は、この再会を回顧しつつ、数年後に、良多たちが再び墓参りをする、限りなく美しい、別の夏休みの日のシーンで、心に沁みいるような深い余韻を残しつつ、幕を閉じる。。。
タイトルは挿入歌にひっかけてだけど、人生は代替えしながらも、延々と続いてゆく旅、ということかとおもう。いつの時代も、親たちは老い、子たちもやがて、親たちと同じように老いながら、懸命にそれぞれの人生を歩いてゆく。この映画、日本のどこか懐かしくも、せつなく美しい夏の終わりを背景に、家族ゆえのぎこちなさと、ほんのりとしたやさしさが、心にじ〜んと、まるで夏の終わりのセミの声のように、沁みてくるような気がしました。家族の景色を暖かな視線でみつめた一作。家族映画の、そして“日本の懐かしく美しい夏休みの情景”を描いた秀作とおもいます。
陽光に恵まれた、とても懐かしい、夏休みの、2日間。「夏休み」のじんわりとくるような光景がたまらなかったです。。。いい日本映画をみたい、というかたにおススメです。星5つです。
・「ぎこちない人間関係の先に見えてくるもの」
長男の命日の夏の日に、老父母(原田芳雄・樹木希林)の家に次男(阿部寛)一家と長女(YOU)一家が集まり、次男一家だけ泊まって帰る、というだけの話だが、凝縮した家族ドラマの佳作だ。老父母と成人した子供たちのぎこちない人間関係を描いた良質な日本映画のパターンを踏襲し、静物の映像をいれてリズムを整えている箇所に日本の家族映画の伝統を感じるが、画面の一部に焦点を合わせて周囲はぼやかしているカット等、映像のタッチには独特のものがある。しかし、本作では映像もさることながら、まずは複雑な人間関係を描ききった脚本、それに見事に答えた俳優の演技を賞賛すべきだろう。
最も存在感があるのが樹木希林。長女と一緒にトウモロコシのかき揚げを作る冒頭からある意味彼女がひっぱっている作品だ。長男に救われ今は青年に成長した男性に毎年長男の命日に家を訪ねて欲しいというが、その男性が帰った後、簡単に長男のことを忘れられてたまるものか、という本音を述べる場面が強烈。日頃の明るい振舞いと隠された本音の落差に驚かされるが、母親の抑えきれない、自然で憎めない感情を吐き出す芝居が素晴しい。また、医者になって息子に家をついで欲しかった老父(原田芳雄)の期待に応えられなかった次男(阿部寛)、その次男と子連れ再婚した妻(夏川結衣)の居心地の悪さは切なくも哀しいが、自分あるいは配偶者の実家に帰省して似たような思いを抱いた人も多いのではなかろうか。日本的な家族関係の明暗が印象に残る。その老父母も亡くなり、次男一家が墓参りをするラストは変わらぬ人の生活の営みを象徴しているかのようだ。映画のタイトルの由来が作品の中で明らかになるが、私と同年代以上の人には意外なものが懐かしい記憶を喚起する。これは観てのお楽しみ。
・「ゴンチチのスコアも秀逸な「小津調映画」」
シネカノンは、質の面において、いまや日本のメジャー5社の遥かに上をいく配給会社である。この会社が送り出す珠玉の作品群が、日本映画再生にどれだけ貢献してきたことか・・・。今回も是枝組の静かな、そして力強い作品を世に出してきた。大船時代ならば松竹が手掛けたであろうテーマだが、映画をビジネスと割り切る大手は、儲からない作品は配給しない。舞台も小津映画の風情に近い、横須賀の野比(三浦半島)だ。是枝監督はドキュメンタリー出身だから、元来こういう作風なのだろうが、今回はそこに小津テイストを盛り込んでいる。夏の暑さ、日本家屋、畳、縁側、家族、長男を失った二男の立場、子連れ再婚の妻、建前だけよくていいかげんな娘、青い海。これだけ「和風」なシャシンは本当に久しぶりだ。そして何と心地よい作品なのだろう。また樹木希林、原田芳雄の圧倒的な芝居や、子供・孫たちの抑えた演技の対比も見事であった。またゴンチチのスコアも最高だ。最近はこういう「家族の絆」を描いた作品は本当に少ない。日本人は全員、この映画を観るべきである。「幸福な食卓」は「現代の東京物語」だが、本作は「正統な東京物語の続編」なのである。文句なしの5つ星。傑作です。
・「穏やかな気持ちになる作品」
この映画は怒り、悔しさ、切なさがいっぱい入っています。見終わると「やっぱり人生ってこういうものだよなぁ…」と少し切なく、穏やかな気持ちになれます。ゴンチチの音楽に癒されました。最後まで特別なことは何も起きませんが、思い出す度に心の中に何かを起こしてくれる素敵な作品だと思います。
・「人それぞれ違ったように感じるのではないか。」
これは観終わったあと、確実に人それぞれ違ったように感じるのではないか。また何も感じずにいられない作品だ。作中はもちろん、自身、家族のことなど。かなりズッシリくる作品だった。演出も素晴らしい。登場人物1人1人にこれだけの愛おしさや可笑しさといった感情を丁寧に描き出した作品はそうはないはずだ。そこがまた作品の魅力でもある。それを演じる俳優陣、雰囲気のよさも同じ。
・「自分の母親が出演しているかと思いました」
うっとおしくていとおしくて、離れたくても離れられない関係…家族とは、そんな存在だと思います。そんな家族との距離を、静かに描いた佳作です。 特に母親役の樹木希林さんは、自分のおふくろがここにいる!と何度も叫びそうになるほど「日本の母親(祖母かな)」の典型を生き生きと演じてくれています。演技か?と疑いたくなる自然な動き、周りに配列された家財や家屋のつくり、料理などもそれを助けてくれています。 「いつも間に合わない」ようにならないよう、今年は帰省しようかな…。
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